能登半島第11次派遣(20240705-08)第12次派遣(20240726-29)

派遣報告書

全体をとおして

能登半島地震における災害派遣、7月度も2回の派遣に行かせていただいた。まずは大阪大学4回生・森嶋隊員が毎回寄稿してくれているので、第12次災害派遣の寄稿文を掲載する。

【今回の第12次派遣の目玉は何と言っても、公民館前で行われた獅子舞演舞だろう。炊き出し初日のお昼ごろ、公民館前の駐車場で約15分間に渡って獅子舞演舞が行われ、私たち隊員もその演舞を住民の方々と一緒に観賞した。太鼓や笛・鉦の音に合わせ、獅子あやしと呼ばれる演者が長い棒を持って獅子舞を先導する。獅子は獅子頭1人と胴幕3人で構成され、獅子全体を左右に揺らしながら、獅子あやしの踊りに動きを合わせる。一つの舞が終わると、次にまた色や大きさ・構成員の異なる獅子舞が登場し、また違った踊りを披露する。皆が色彩豊かな衣装を身に纏い、音に合わせて生き生きと踊る姿は、見ているこちらに心が弾むような軽快な心地よさを与えてくれる。
 この地区では毎年7月の第4土曜、浦上八幡神社奉賛の「浦上まつり」が開催される。かつては19の集落がそれぞれの神社で祭りを執り行っていたが、各地区の神社が浦上八幡神社に合祀されて以来、地区全体として浦上まつりを行っているそうだ。浦上まつりの神輿は県下でも珍しい六角面の屋根をしている。石川県や輪島市のホームページでもその祭りが紹介され、例年の祭りの映像がYoutubeにも豊富に上がっていることから、この祭りがこの地区で非常に重要な行事であることが分かる。Youtubeに投稿されている昨年や一昨年の映像によれば、例年のお祭りは以下の流れで行われる。神社境内での獅子舞演舞の後、神社から浦上公民館に向かって神輿渡御が行われる。真っ赤なのぼり旗を先頭に、太鼓・神輿・小旗・吹き流し・天狗等が続き、100人以上の住民が列をなして巡行する。公民館到着後は、その場で再び太鼓や獅子舞の演舞が行われる。その後約20人ほどの屈強な男性たちが神輿を担ぎ、公民館前の約100mの道路を激走して何度か往復する。その後、再び神社に向かっての神輿巡行、奉納獅子舞、神輿還御という流れで祭りが執り行われるようである。それらの映像では、普段は都市部に出ている若者たちも祭りに合わせて帰ってきているのだろうか、老若男女問わず非常に多くの住民が集まって祭りを盛り上げていた。
 今回、7月の第4土曜に獅子舞演舞が行われた。本来は浦上まつりが行われるはずの日程である。「浦上まつり」という名前を取らず、浦上公民館前と道下第1団地集会場付近での獅子舞演舞に限定された。例年の映像と比較して見れば、今年は通常の浦上まつりの一部、獅子舞演舞だけが切り取って行われた形式となったことが分かる。住民のお話によれば、祭具を納める建物が地震により倒壊し、獅子舞以外の祭具が取り出せなくなってしまったため、このような形となったということである。今年の様子だけを見た私にとっては充分に立派で感動する獅子舞演舞であったが、例年のお祭りを経験している住民の方々にとっては寂しさを覚えるものだったかもしれない。昨年や一昨年の映像を見ていると、地震によりたった一年で町が大きく変わってしまったことがはっきりと分かる。かつて獅子舞演舞を行うその後ろには美しい緑色の芝生が広がっていた。辺りは沢山の人で賑わい、公民館はその祭りの様子を見守るように堂々とした佇まいをしていた。周囲には自然豊かな山々を背景に、昔ながらの家屋が多く立ち並んでいた。それがたった一年後の今、芝生は跡形もなく消え、そこには仮設住宅が立ち並んでいる。公民館の周囲に仮設住宅が次々と建てられた今、かつて緑がいっぱいに広がった視界のほとんどを白く無機質な仮設住宅が占めている。公民館自体も屋根の瓦が剥がれ、ブルーシートに覆われ、入口には大きな貯水タンクが置かれている。ある程度住民が集まっているとはいえ、かつての賑わいとは比較できない。付近の家屋も無残に倒壊し、不自然に傾き、時が止まっているかのようである。また、私たち救援隊の存在も本来この町にあるものではなく、私がこの場で住民の方々と共に獅子舞を観賞していること自体異常なことである。昨年の祭りからたった一年の間にどれほど町が「変わってしまった」のか、地震がもたらした影響の大きさを痛感した。
 しかし、「変わってしまった」ものばかりに目を向けてはいられない。祭りの形を変えてでも獅子舞演舞が行われたことは、「変わってしまった」この町で、「変わらないもの」を守り続けようとする住民の意思の表れだと読み取れる。元来、日本人は山や川、海などの自然に神が宿っていると考え、水源の神様である水分神に祖先の霊魂を加え、農耕の守護神として氏神を崇める。その氏神を祭るのがお祭りで、仏を守る聖獣である獅子の頭を被って行う獅子舞は氏子の家々に神の力を授ける営みであり、豊作への感謝と共に、邪気を払われ清められた安心感と、新しい一年への希望をもたらすものだと言われている。これまで日本人は、生きていく中で気枯れするような困難に出会ったとしても、祭りや獅子舞を行いながら、祈り、願い、乗り越えてきたのである。(宮家準『民俗宗教と日本社会』より)これこそまさに、今の浦上地区にも通ずることではないだろうか。突然の災害に見舞われ、人を失い、家を失い、故郷を失った過酷な環境でも、残された祭具を使って獅子舞を踊り、皆でそれを見届ける。災害という非常事態に遭遇しても、未来への希望を失わず、地域の伝統や文化・慣習・コミュニティの繋がりを守り続ける。これだけあらゆるものが「変わってしまった」場所で、この「変わらないもの」を守り続ける姿というのは、人々の心にコミュニティの存続への希望や期待、安心感を与えるのではないだろうか。今後の浦上地区の未来にとって、今回の獅子舞演舞が一つの機転となることを心から願いたい。
 そして、救援隊にとって、今回の獅子舞演舞において、もう一つ特筆すべきことがある。お昼の獅子舞演舞が終わり、夕方の炊き出しも終わり、我々が片付けにかかろうとしていた時であった。ある方が突然、「今から、あなたたちの為に踊ります。」と仰った。こんなことが起きると誰も予想していなかった我々は戸惑いながら、手を止めて皆でテントの前に並んだ。すると公民館の中から先程の獅子舞が登場し、私たちの為に、私たちの方を向いて、踊りが始まったのである。メンバーは即興的に構成され、もうとっくに獅子舞を引退したであろう年配の男性も参加し、その場に笑いが溢れる和気あいあいとした空間で、3頭の獅子舞が順に踊りを披露した。お昼の獅子舞で、地域の方々に混ざってこの伝統的な行事を見ることができて幸運だなぁと思っていた矢先に、今度はその獅子舞が私たちに真っ直ぐ向けられているのである。これほど贅沢な話があるだろうか。私たちのために獅子舞を踊ってくれているという事実があまりにも衝撃的で動揺してしまったが、何かを考える前に、とりあえず今この景色をしっかり目に焼き付けなければならないという思いで獅子舞を見つめた。救援隊にこの獅子舞を送りたい、特別に踊りたい、と思っていただけたという事実をありのまま噛みしめたいと思う。私がこれまで活動してきたことの何倍ものお返しを頂けたこと、今後の活動において、いや、私の人生において、忘れられない思い出を作っていただいたことに、本当に心の底から感謝し、これを今後の活動の原動力にしていきたい。】

以上が森嶋隊員の寄稿となる。
7月度は、猛暑の中での活動となったが、大阪に比べると、アスファルトも少なく、ヒートアイランド現象(ヒートアイランド現象とは:都市の気温が、その周辺の郊外部に比べて高くなる現象。地表面の人工化や、人口排熱の増加などが原因となり引き起こされる熱環境問題)がないぶん気温は低いが、それでも調理をするテントの中は高温で、よい修行となった。
昼前には、森嶋隊員が寄稿してくれたように、素晴らしい地元の祭りである獅子舞を目の前で見させていただき、さらには、炊き出しが終わる頃、獅子舞の責任者の方が、
「いつもありがとう。あなたたちのために獅子舞を舞います」と、誰も帰ることなく炊き出しが落ち着くのを待ってくださっていた。
獅子舞の演者は大半が仮設住宅にお住まいの方で、特に小さい子どもが猛暑の中で2週間一生懸命練習してきたと聞き、私たちのために獅子舞を舞ってくださる姿を見たときには、元日の震災からここまで、避難所生活、仮設住宅での慣れない生活と、どれほどのストレスを抱えてきたことか、その困難を乗り越えようとする姿を見た時、私たちももっとお役に立たせていただかねばと決意を新たにした。
そして、こういったことこそが、私たちがこの地区の皆さんに受け入れられているという証であり、少しずつかけがえのない存在になれてきているものと確信している。
8月31日までの活動予定を地区の方には提出していたので、私たちの活動が8月末で終わると思っておられる方も多くあったが、白神隊長と相談の上、まずは今年いっぱいまでの活動を決め、獅子舞の鑑賞の後、お礼の言葉とともに、「大変な中、このようにしていただきありがとうございました。私たちは、これからも少しでもお役に立たせていただければと願っておりますので、まずは1年を目指し、今年12月末までの訪問をさせていただきたいと思うのですが、いかがでしょうか」と挨拶をすると、たくさんの方が「本当に嬉しい。ありがとう」と喜ばれ、涙ぐむ方も多くおられた。
8月には、新たに46戸の仮設住宅が追加となり、約250食の提供となる。暑さ寒さの中、少数精鋭でやっているため隊員の負担も大きいが、それでも今は優秀な隊員を抱える救援隊としては、なんとか、おかげをいただいてまいりたいと思う。

教区の先生方をはじめ、信奉者の皆さま、ご支援をくださっている皆さまには、いつも暖かい励ましのお言葉やたくさんのご支援をいただきありがとうございます。
先日の宮崎県日向灘を震源とする地震により、巨大地震注意が発令されました。防災・減災に向けた取り組みも引き続き行ってまいりますが、皆さまのお手元におかれましても、備蓄や非常時携行品のことを再度ご確認いただき、どうぞ身の上のこと、お気をつけいただきたいと存じます。
今後とも、全力で取り組んでまいりますので、引き続きご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。
(文責・竹内真治)